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神戸市のワイナリーと酒造会社でそれぞれ酒造りに携わる女性2人がタッグを組み、国内でほとんど例のない日本酒酵母を使った白ワイン「日本酒酵母仕込み シャルドネ 2022」を開発した。2年近くの試行錯誤の末に完成したワインは、アルコール度数10度とワインでは低め。2人は「普段ワインや日本酒になじみのない層にも楽しんでもらいたい」と話している。
2人は、神戸ワイナリーを運営する神戸農政公社(神戸市西区)ワイン事業部の山口由葵(ゆき)さん(29)と、白鶴酒造(同市東灘区)研究室の下司友仁香(げし・ゆにか)さん(27)。
神戸ワイナリーの「神戸ワイン」は世界のコンクールで受賞歴があり、白鶴酒造は日本一の酒どころと呼ばれる「灘五郷」の酒造メーカー。元々、ワインのボトリングの業務委託などで連携していた両社が双方のブランド力向上などを目指し、令和3年7月から協同でワインづくりを始めた。研究開発にあたる2人が担当者となり、〝新酒〟開発に取り組んだ。
だが、道のりは険しかった。まず、下司さんが白鶴酒造が持つ400株以上の自社酵母から、香りや発酵性をもとにブドウ果汁と相性が良いものを選ぶことから取り掛かった。約2カ月間、試験醸造を繰り返した結果、日本酒の醸造によく使われ、バナナやメロンのような香りがする「酢酸イソアミル高生産酵母」に絞り込んだ。
ここから山口さんの出番。下司さんから酵母の特徴を聞くなどしながら、神戸ワイナリーでブドウ果汁を酵母で発酵させていく。しかし、温度調整がうまくいかず3年度の製造は失敗。一般的な白ワインの発酵温度は15度ほどだが、酵母の発酵性を考慮して約20度に設定したことで予想以上のスピードで発酵して酸味が強くなり、商品として扱えない出来になってしまった。
それでも2人は諦めず、文献を調べたり、意見交換したりして使用する日本酒酵母を検討。前年と同様の酢酸イソアミル高生産酵母の中でも、発酵したときに酸を出しにくいものを使うことに決め、発酵温度も約15度にして開発を進めた。
4年春からは両社の職員が協力して、オリジナルワインに使うブドウの栽培も開始。8月から製造に入り、日本酒らしい吟醸香がありながらブドウ由来の果実味がマッチした味わいのワインに仕上げた。
口に含むと、フルーティーでこくのある味わい。アルコール度数を低めにしたのも、ワインになじみのない若者が飲みやすいようにする狙いもあった。
「無事商品化できるような酒質になったときは安心感と達成感があった」と下司さん。新型コロナウイルス禍でアルコール飲料の消費量は落ち込み、需要が低迷しているといい、山口さんは「若い世代にも新しい発見として手に取ってもらい、神戸のワインと日本酒の文化を知ってほしい」と願っている。
来年度からは市販に向けて本格的な製造に入る予定だが、4年度にできたワインは量が少ないため、販売されるのは計80本。3月31日から両社の直営店で1本(750ミリ)3080円(税込み)で販売する。
筆者:喜田あゆみ(産経新聞)